陽だまりの夢。


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『しまった……誓いのキスが出来ない』

私は卵の殻を通してゼノさんの呟きを聞いていた。
ドラキュラにやられた腕の傷がズキズキと痛むけれど、それすらも忘れて聞き耳をたてる。
(いいなぁ……真彩が羨ましいなぁ……)
真彩の声は聞こえないけれど、きっと、きちんと答えているはず。
だって、あれほど望んでいた『太陽』の言葉なのだから。
ゼノさんの、心の篭った声なのだから……。
………………あれ?
……あれ、あれあれなんだろう……?
なんか、胸の奥がチクチクする。
そう思って自分の胸元を見下ろそうと思ったら、目から何かが零れた。
………………あれ?
何で、泣いているんだろう。
あれ? あれあれ? ……あれ?
何で?
何でこんな……こんな、幸せな気持ちじゃない涙が流れるの?
何でこんなに胸の奥がドロドロするの?
あ……あれ? あれれ?
おかしい、おかしいよ……?
真彩はゼノさんが好きで、ゼノさんは真彩が好きで……万々歳じゃない。
何でそこに『私の気持ち』が入り込もうとしてるのよ……?
何で、『真彩が羨ましい』のよ……?
嫌だ……嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ……これは、違う。
私の頭を優しく撫でるゼノさん。
皆を守るため、盾となり『男』の姿を見せるゼノさん。
卵の殻を通して……私にキスをしてくれるゼノさん。
etc、etc……。
様々な映像がフラッシュバックする。
こんな、こんな気持ち、私は……認めたくない!
こんな、私の……っ!
(……それがお前の『闇』だ)
ズキンッ。
不意に、脳内に声が響いた。
「っ!?」
(『真彩が羨ましい』だろう?)
やめて……。
(『ゼノンに愛されたい』だろう?)
やめてやめて……。
(『真彩の位置に立ちたい……真彩になりたい』だろう? 素直になれ。クククククク……)
やめてぇぇぇぇぇっ!
私は必死に耳を塞ぎ、声が聞こえないようにしようとして『気付いた』。
私の左腕。
そこにある真新しい傷痕から、皮膚の色がどんどんどす黒いモノに変わってゆく。
その傷は……先刻の戦闘で受けた傷。
(……ご機嫌いかがかな、我が眷属たるムシケラの娘よ)
……『ドラキュラ』の声が、私の中から聞こえる。
どうしようもないほどに、聞こえる。

(可愛い可愛い『汝の願い』……叶えてやろうではないかっ! クックックッククククク……)

嘲笑を含んだ闇の声が。

最後通告を告げた。


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